今回の「ひのき通信」では少し気の早いお話を。
現在の指導要領は2020年の小学校を皮切りに21年には中学校、22年から24年にかけて高校で年次進行の形で施行されています。
2025年度の大学入学共通テストで新指導要領の下での初めての入試が実施されたばかりなのですが、早くも2030年に導入される指導要領の話題が取り上げられるようになってきました。
そのなかでも取り上げられる機会が多いのが「デジタル教科書」です。今回はこの話題について考えてみたいと思います。
新指導要領については、昨年12月の文科大臣の諮問に対して、今年の9月に中教審から「論点整理」が発表されましたので、まずはそこから見てみましょう。
論点整理の冒頭で「改訂論議を貫く三つの方向性」として
①「主体的・対話的で深い学び」の実装
② 多様性の包摂
③ 実現可能性の確保
が提起されています。
上記のうち①で現行の指導要領が目指している「主体的・対話的で深い学び」の「より一層の具現化・深化を図るものである」としており、新指導要領が現在の考え方を概ね継続していく方針であることが分かります。
そのうえで「デジタル学習基盤の効果的活用」は「授業改善に不可欠」とされており、「情報活用能力を各教科等における探究的な学びを支える基盤と位置付け、抜本的な向上を図る」としています。そのため小学校では総合的な学習の時間に「情報の領域(仮称)」を付加し、中学校ではいまの技術・家庭科の中への「情報・技術科(仮称)」の創設が検討されています。
こうしたなか、「デジタル教科書」が大きく取り上げられているのです。以下では中教審の「デジタル教科書推進ワーキンググループ(以下WGとします)」が2025年9月に発表した「審議のまとめ」に沿って教科書のデジタル化についてみていきます。
デジタル教科書の現状
とは言うものの「デジタル教科書って、とっくに使ってるのでは?」と思いませんか。確かに教科書をデジタル化したものが使われはじめてから実はもう5、6年は経っています。そんな中、2030年の指導要領改訂でなぜデジタル教科書が話題になっているのでしょうか。
いま学校で使われているデジタル教科書は学校基本法により「紙の教科書に代えて使用できる教科書代替教材」として2019年4月に制度化されました。
デジタル教科書は、教科書発行者が「紙の教科書の内容の全部をそのままデジタル化」した「教材」なのです。あくまで「教材」であって「教科書」ではありません。教科書ではないので使用義務や検定・採択・無償供与の対象ともなりません。
その「デジタル教科書」の現在の活用状況は、英語では約100%、算数・数学では約55%の小中学校等に国から提供され、6割以上が1/4回~毎回授業で使われています。概ねよく使われていると言ってよいのではないでしょうか。
そしていつも使う児童生徒は「授業内容がよく分かっている」「主体的な学び、対話的で深い学びに取り組んでいる」割合が高い、との調査結果も報告されています。
デジタル教科書の制度的な位置づけ
上記のようにいまは「教科書代用教材」なのですが、それを今後は「教科書」として使えるようにしようと、検討が進められているのです。WGの「審議のまとめ」には
制度化から6年、効果・影響等の知見が蓄積され、効果を実感した学校関係者から
・「教材」ではなく無償供与の対象となる「教科書」として位置付けるべき」
・紙の教科書と同一内容という要件がデジタルならではの可能性を狭めている
との意見が出ている
とあります。
また児童生徒からも「デジタル技術を用いた教科書がいい」との声が出ているとも言われています。
こうした意見も踏まえて教科書の形態として、紙だけでなくデジタルも認め、現場が選択できるようにすることを制度上位置付けようとしています。また、一部が紙、一部がデジタルのハイブリッドな形態の教科書も認める、ことになるようです。
導入時期については、次期指導要領の実施に合わせて導入とされており、2030年度からの導入に向けて準備が始まっている段階です。
教科書の範囲・内容・分量
「教科書」は検定を経ることを前提に学習指導要領に基づき教育内容が文字や図画等により系統的・組織的に記述されたものが該当します。現行の教科書にも多用されているQRコードに代表される二次元コードについても、そのリンク先のコンテンツについても現在は教科書でなく教材なのですが、今後は教科書の一部として位置付けられるものについては認める方向で検討されているようです。
ただデジタル化することにより教科書の内容・分量が大幅に増加する可能性も指摘されています。現在は教科書は網羅的に教えなくてはならない、という考えも学校現場では根強いようで、審議のまとめには「教科書「を」教えるから、教科書「で」教える」への転換も提言されています。
「デジタル教科書」が導入されることにより「教科書」の位置づけも変わってくるのかも知れません。
検定・採択・発行供給
デジタル教科書を「教科書」として使用するについては検定・採択を経なければなりません。
発行供給についても「ライセンス期間」「使用可能期間」「アカウント管理」など紙の教科書にはなかった検討事項がいろいろと出てきます。
現行の教科書制度では、おおむね4年を一つのサイクルとして運用されています。実際に学校で使用される年度の前年度に採択、前々年度に検定、3年度前には発行者による著作編集が行われることになります。2030年度から使おうと思うと、まさに今決めていかねばならないわけです。冒頭に気の早い話と書きましたが、決して気が早いわけではないのですね。
中教審の答申は、2026年の夏頃になる予定です。
AIに代表される昨今のIT技術の目覚ましい発展などにより、これから社会に巣立っていく子供たちには、より一層のITリテラシーが必要になってくるであろうことは容易に想像できます。指導要領で強調される「主体的で深い学び」という考え方も、これから必要とされるものは「知識」ではなく「知恵」なのである、という思いでしょう。
児童生徒たちが、AIに使われるのではなく、使いこなせる大人になっていけるようなリテラシーを身につけていってほしいと思います。
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