2025年度の首都圏の中学入試は、首都圏模試センターの集計によると1都3県の国私立中学の受験者数は52,300名(過去最高の1作年が52,600名)でした。受験率は約18%で、中学受験ブームの継続が確認される形となりました。
2025年度の中学入試の特徴としては
・最難関校、難関校の志望者が微減
・中堅校の人気上昇の継続
・グローバル教育、STEAM教育etcに取り組む学校への期待大
・多様な入試が人気上昇
等々のことが言われています。
第3次中学受験ブームと言われるなか、中学受験は大きく様変わりしています。かつてのように皆がこぞって難関校を目指すのではなく、受験生(保護者)が自分に合った学校·教育を求めて中学受験に向かうと云うケースが大変に多くなっています。
中学受験と云うと、低学年から塾に通い何が何でも最難関校を目指す、という従来型がまだまだ世間の耳目を引いていますが、一方で小学校生活を大切にし習い事などを続けながら、偏差値に捉われることなく自分の能力を最大限に伸ばしてくれる学校を探そう、と云う受験生が多くなっているのも事実です。
なぜそのようなことになっているのでしょう?
大きな要因としては、いま現在の受験生の保護者の皆さまの多くが、かつて自分でも中学受験生であった、と云う経験が大きいのではないかと思います。中学受験の実情に詳しく、自分のような受験をさせたい、逆に自分のような受験はさせたくない、などという思いが我が子に合った受験を希求させるのではないかと筆者などは思っています。
さらに外部環境も大きいでしょう。いま日本はと云うより世界は日々激動しています。目覚ましい先端技術の進展、国境を超える経済・人の流れ、旧来の秩序の動揺etcが私たちを翻弄しています。かつてのロールモデルはもはや通用しません。
いまや子供たちが身に付けなければならないのは、良い成績をとれる能力ではありません。学習指導横領に謳われているように「自ら課題を見つけ、答のない課題に向かって主体的に取り組むことのできる学力」が必要とされているのです。
探求型学習やSTEAM(STEM)教育やグローバル教育などの「新しい学び」に期待が集まるのも、こうした新しい学びがそうした能力を涵養してくれるという期待からです。
人気上昇の中堅校は、こうした世界の動きに目を留め、これからの時代を生き抜く子供たちが身に付けておくべき学力の涵養を目指して、新しい学びを実現できるコース、カリキュラムの設定に努力を重ねています。いま中学·高校のHPや案内パンフには「新たな教育」に取り組む学校の姿が大きく紹介されています。曰く
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・探求型学習 ・STEAM(STEM)教育 ・グローバル教育 ・ドルトンプラン ・国際バカロレア ・ダブルディプロマ etc |
皆さまもどこかで耳にされたことがあるのではないでしょうか。とは言え、これってどういう教育なの?と聞かれて、明確に答えられる人はそう多くはないようにも思います。
これらの教育はそれぞれの学校が勝手に喧伝しているのではなく、理論的裏付けもしっかりしており、文部科学省も推進しようとしている新しい時代を見据えた教育なのです。
そこで「ひのき通信」では、これから志望校選びを始めようとしている皆様を対象に、いくつかの術語を説明してみたいと思います。
このうち探求学習については2/15付けの記事で詳しく書いておりますので、そちらをご参照いただければと思います。
・探求学習って何だろう~「探求」は新学習指導要領のキーワードの1つです
https://www.hinoki-net.com/info/list/detail/n/650/
STEAM(スティーム)教育
まずSTEAM教育からみていきましょう。これはScience(科学)、Technology(技術)、Engineering(工学)、Arts(芸術)、Mathmatics(数学)の頭文字をとったもので、教科横断的な教育とされます
STEAM教育は、2000年代にアメリカで提唱された教育概念です。もともとは理数系の科目のみで構成されたSTEM(ステム)教育として広まりました。
このSTEMに「A」が付け加わってSTEAMという概念が提唱されました。この「A」の範囲はかなり幅広く解釈され、初期にはArts(デザイン、感性etc)と考えられていましたが、近年はLiberal Arts(教養)として、美術、音楽、文学、歴史に関わる学習なども取り入れて考えるようにもなっているようです。いずれにしろ文系・理系の枠を超えた学びを目指していることには変わりはありません。
文科省も「STEAM教育等の教科等横断的な学習の推進について」などの文書を公表して、STEAM教育を推進しようとしています。
そこではSTEAM教育を「各教科での学習を実社会での問題発⾒・解決にいかしていくための教科横断的な教育」と定義し、そのなかで「⽂系・理系といった枠にとらわれず,各教科等の学びを基盤としつつ,様々な情報を活⽤しながらそれを統合し,課題の発⾒・解決や社会的な価値の創造に結びつけていく資質・能⼒」の育成を目指すとしています。
そのうえでSTEAM教育の⽬的には
①幅広い分野で新しい価値を提供できる⼈材を養成する側面
②さまざまな分野が複雑に関係する現代社会に⽣きる市⺠の育成の側⾯
の2つがある、としています。
「A」の範囲をArtsに留めず、「芸術,⽂化のみならず,⽣活,経済,法律,政治,倫理等を含めた広い範囲(Liberal Arts) で定義し推進すること」は、文系を自認する生徒にもSTEAM教育をひろげ、上記②の「現代社会に⽣きる市⺠の育成」につなげるため、と考えると良さそうです。つまりこれからは特定の技術者だけではなく、ひろく一般の市民も理数系の素養を身につけていくべきと考えているわけですね。
では各学校は、具体的にどのようなカリキュラムでSTEAM教育に臨んでいるのでしょうか?
一例としてSTEAM教育に早くから取り組んでいる学校として評価の高い芝浦工業大学附属中学校のHPを覗いてみましょう。
芝浦工大附属では、まず中1·中2でIT(Information Technology)教育とGC(Global Communication)教育を並行して実施し、中3の総合探求教育に繋げると云う構想でカリキュラムを組み、STEAM教育の最終目標を「IT・GCでの学びを駆使して理工系の知識で社会課題を解決する」としています。
IT教育においては
・Scratchを使ってプロググラミン言語の習得
・BigDataの解析手法の理解
・AIを利用した自然言語処理
・PBL(Project Based Learning)の習得
などを学びます。
またGC教育においては
・学校が立地している湾岸エリアの成り立ちや伝統工芸の魅力を調査
・農村体験を通した日本の社会課題の調査
・海外教育旅行訪問地調査
・総合探究に向かう自己課題の発見
のように自分の周辺から最終的には世界全体にまで視野を広げて、現代社会が抱える様々な問題を自分たちの課題として研究・解決するという視点での学びを進めています。
これをみてもSTEAM教育とは単に「理数系」の学びを教科横断的に行うだけではなく、「実社会での問題発見・解決」のため「自ら課題を見つけ学んだことを活かす」ための教育であることがよく分かります。
因みに上記の説明は、筆者が芝浦工大附属のHPで読んだことをごく簡単にまとめたもので、実際のHPには当然ながらもっとたくさんの情報が掲載されています。ご興味を持たれた方は、ぜひ直接HPをご参照ください。
・中学課程の特色 | 中高一貫教育 | 芝浦工業大学附属中学高等学校
https://www.fzk.shibaura-it.ac.jp/junior/feature/
・STEAM型カリキュラム | 高校入学教育 | 芝浦工業大学附属中学高等学校
https://www.fzk.shibaura-it.ac.jp/high/steam_curriculum/
このような理数系の教育に力を入れている学校としては
『「SSH」指定校』『「科学の甲子園」参加校』『「JSEC(Japan Science&Engineering Challenge)参加校』
などが参考になるでしょう。
いずれにしろ、各学校が発信しているSTEAM教育への取り組みをHPやパンフ、学校説明会などでしっかり見極めることが必要かと思います。
その際、一つの視点を提供してくれるのではないかと思うのがSTEAMの「A」をどう捉えているかに着目すると、その学校の取り組みの姿勢がよく分かってくるかも知れません。
文科省が掲げる上記の2つの目的「①人材養成寄り」なのか「②市民育成寄り」か、ですね。
筆者などはLiberal Arts(教養)重視であれば「市民育成寄り」かと思ったりするのですが、どうでしょうか?
先にご紹介した芝浦工大附属や「SSH」指定校などは、その取り組みを見ていると「人材育成寄り」なのかな、と思ったりします。
また昨今流行っている「リケジョ(理系女子)」と云う言葉も、STEAM教育に対する期待を表しているのではないでしょうか。女子校でもSTEAMとまでは言わなくても、理系教育に力を入れているところはずいぶん多くなっています。算数1科入試を実施している女子校も多くなってきました。
AIが益々進化するであろう今後の世界で生きていくためには、理数系の知識を持った文系人、一般教養を身に付けた理系人のいずれかにならねばならんのだろうと思います。大変だけど(^^
さて今回は、もうひとつ「グローバル教育」にも触れたかったのですが、当初の予定よりも長くなってしまったので、こちらは次回以降の記事とします。「グローバル教育」に「国際バカロレア」「ダブルディプロマ」を絡めて書いていこうと考えております。
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