今号のひのき通信は、現高3以降の皆さんが受験する新指導要領に基づいた新しい大学受験について見ていきます。
今回は中堅私立高校に通う現高2のひのき陽翔(はると)くんの大学選びに即して、入試制度のあれこれを見ていこうと思います。因みに「はると」という読みは、15年連続で男の子の名前のランキング1位だそうです(^^)
さて陽翔くんは、ぼんやりと経済学・経営学を大学で学んでみたいなと思っています。
大学受験には国公立受験と私立受験の違いがあることは陽翔くんも知っています。国公立は原則共通テストの受験が必要で、その共通テストは6教科8科目以上と聞いていたので、理系科目が大の苦手な陽翔くんは国公立の受験は諦めようかなと思っています。なにせ中学の頃から数学が苦手で、高1のときも数学には大苦戦しました。おや?文系といっても経済学は数学が出来ないとマズいんではないの?と思うのですが、取り敢えずいまはかれの志望を優先しておきましょう。
いや陽翔君、必ずしも諦めることはないのだよ、という話も含めて、ここでは先ず国公立大学の入試について見てみましょう。
国公立・私立に依らず、いまの大学入試は「一般選抜」「学校推薦型選抜」「総合型選抜」の3種類の選抜方式があります。私立においては「学校推薦型選抜」「総合型選抜」を利用して大学に入学する生徒の数が50%を超えているのですが、国公立に於いてはまだ「一般選抜」での入試が約8割を占めます。右のグラフは国公立の募集人員の割合を選抜方式別に見たものです(2024年度入試)。
そこでここでは国公立を一般選抜で受験する場合について見ていきましょう。
「共通テスト」+「個別学力試験」が原則
国公立大学の一般選抜は「共通テスト」と各大学が実施する「個別学力試験」の合計で合否が判定される場合が一般的です。
まず最初に国公立大学の入試日程を見てみましょう。
個別試験は「前期日程」と「後期日程」に分けて実施されます。一部の公立大学で「中期日程」が設定されています。それぞれの日程で1校ずつ受験できますので、国公立大学は最大3校受験することができるわけです。
基本的には上記のように「共通テスト」と「個別試験」の合計で合否が決まる場合が多いのですが、少数ではありますが「共通テスト」のみで受験可能な大学もあります。首都圏では山梨県都留市にある公立都留文科大学がこの方式の学校としてよく知られています。ここは前期日程と中期日程に入試日が設定されているのですが、前期日程の全学部の全学科(2学部6学科)で「共通テスト」のみの選抜を行っています。
例えば文学部国文科の募集要項をみると、3教科3科目型の選抜方式で「国語」「外国語」の2教科が必須、「地理歴史」「公民」「数学」「理科」の4教科から1科目を選択する形で3教科の合計500点満点となります。そのうえで要綱には「個別学力テストは課さない」となっています。都留文科大学以外にも公立長野大学、国立埼玉大学などが学部学科により「共通テスト」のみの選抜を行っています。
とはいえ多くの大学では「個別試験」も受けなければなりません。ここで注意すべきは国公立の出願は「共通テスト」の約10日後からスタートすると云うことです。「共通テスト」の自己採点の結果によって、当初の計画とは異なった大学を選ぶことができます。いくつかの出願パターンを考えておいた方が良いということですね。
また、「共通テスト」の成績如何では2次試験を受験できなくなる場合もありますので、こちらも注意しておきましょう。「志願者が募集人員の〇倍を上回った場合、第1次選抜を行う」としている大学があるのです。ここで言う「第1次選抜」とは共通テストの成績で2次試験の受験者を事前に選抜する、という制度です。倍率の高い学部・学科などを志望する場合には「共通テスト」の結果次第では「個別試験」を受験できないことがあるので要注意です。
また「前期日程」で合格して入学手続きを済ませると「中期日程」「後期日程」の合格の権利を失ってしまいますので、それにも注意してください。
共通テストの構成
2025年度入試から共通テストの構成が変わります。高1からの3年間を新指導要領で学んできた初めての高3が挑む大学入試になります。2024年度まで6教科30科目だったものが7教科21科目に改変されます。7教科21科目の内容と試験時間は下表の通りです。
今回、理科以外の6教科が改変の対象になっています。地理歴史・公民では、新指導要領に合わせて、科目構成が大きく変わります。地理歴史では「探求」が科目に加えられ、新指導要領で重視されている「主体的な学び」を評価しようとする姿勢が見られます。
また数学②では、これまで「数学Ⅱ」「数学Ⅱ・数学B」「簿記・会計」「情報関係基礎」からの選択だったものが「数学Ⅱ、数学B、数学C」の1科目に統合されました。これは新課程で「数学C(ベクトル・平面上の曲線と複素数平面・数学的な表現の工夫)」が創設されたことを受けてのことです。
また、これも新指導要領に基づき高等学校情報科においては共通必履修科目「情報Ⅰ」が新設されたことを受けて、共通テストでも「情報Ⅰ」が新科目として創設され、国立ではほとんどの大学が必須科目としています。
このように共通テストひとつをとってみても、保護者の皆様が受験生だったころの大学入試とは大きく様変わりしています。お子様が大学受験に向かうときには、ぜひ注意していただき、学校や塾・予備校の先生とよく相談するようにしてください。
国公立大学の入試では多くの場合、この中から6教科8科目が課される場合が多いようです。内容は各大学によって異なりますが、陽翔君志望の文系学部の場合「外国語・数学2・国語・理科・地歴公民2・情報」というパターンが多いようです。
文系志望でも数学・理科の受験が課されます。国公立を志望する場合は一般的にはオールラウンドな学力が要求されます。文系志望でも数学・理科の勉強も頑張らねばいけないわけですね。
陽翔君はここで、中堅国立の埼玉大学(経済学部)の入試について調べてみました。
埼玉大学の【前期日程】の募集要項は以下のようなものでした。
≪共通テスト≫
・国語:「国語」必須
・地歴公民:社会6科目の中から2科目選択
・数学:「数学Ⅰ,数学A」「数学Ⅱ,数学B,数学C」必須
・理科:理科5科目から1科目選択
・外国語:外国語5科目から1科目選択
・情報:「情報Ⅰ」必須
以上〔6教科8科目〕or〔7教科8科目〕となります。(教科数の違いは地歴公民の選択の違い)
≪個別試験≫
・国語,数学,外国語の3教科から2科目を出願時に選択
後期日程もテスト科目数としては前期とほぼ同じです。共通テストにおいてやはり理科と数学が必須になっています。前記のように国公立の大学の約8割が6教科8科目でテストを実施します。多くの国公立大学では、この埼大と同様の科目構成にいます。
ちなみにこの埼大の前期日程においては共通テスト950点、個別テスト500点の計1450点満点という配点になっています。そして合格者の平均は約65%の得点率になっているようです。
確かに国公立では、このような科目構成が一般的です。しかし実は国公立の「前期日程」「後期日程」でも国語・外国語・社会の3科目で一般選抜に挑める大学があるのです。
先ほど都留文科大学の「共通テスト」のみでの入試、しかも文系科目のみでOKの例を紹介しましたが、ここでもう少し理数のない受験パターン(飽くまで国公立一般選抜の範囲内で)を探ってみましょう。
国公立 共通テスト「国語・英語・社会」で受験
陽翔君がネットで調べたところ、共通テストで文系科目のみ課している大学が80余り見つかりました。多くは公立ですが、国立もいくつか混じっています。北は北海道から南は沖縄まで全国に散らばっていますが、そのなかで経済学部・経営学部があるのは新潟県立大学、福井県立大学、釧路公立大学など数校にとどまります。陽翔君はその中でこのところ何かと話題の福井県にある福井県立大学を調べてみることにしました。
福井県立大学の募集要項にある前期日程の入試科目は下表のようになっています。
たしかに「共通テスト」で国語・外国語・地歴公民を選択すれば、「個別学力試験」は国語と英語だけで受験できますので、文系科目のみで個別試験有の前期日程に臨めることが分かります。後期日程は数学が必須になっていますので、陽翔君にはハードルが高いのですが、前期なら何とか行けるではないですか!
福井は少し遠いかもしれませんが、学生になることですから(事情が許せば)思い切って親元を離れる手もありかもしれません〔新幹線開通して福井近くなったし^^〕。或いは経済学経営学の志望も今のところそれほど確定的なものではないので、例えば社会学とか教育学とかも視野に入れれば、文系科目での一般受験の選択肢ももっと広がるかもしれません。
大学入試は、大変多くのバリエーションを持ちます。国公立一般選抜に限っても、上記のようにたくさんの選択肢があります。
個々の受験生にとって大事なのは大学入試の一般論ではなく「自分の」大学入試をどうするかと言うことです。オールラウンドに高い学力を持っている受験生なら大学入試概論的なところから志望校選びをしても良いのでしょうが、わが陽翔君のように受験科目やら学力やらに一定の制約を持って大学を探さねばならないケースも多いのではないでしょうか。今回の記事はその辺りも踏まえて、個別具体のケースを想定して書いています。都留文科大学や県立福井大学の情報を使いましたが、これは単なる一例です。自分の事情に応じた大学選びをしましょう。
一般論で考えると、数理ダメなら国公立は無理だね、ということになりますが、必ずしもそうではないのは上記の通りです。確かに数はそんなに多くはないのですが、制約された条件のなかでも選択肢がある、と云う事実は大学選びをするときに意識しておきたいところです。
今回は「苦手科目があっても必ずしも国公立諦めることはない」という視点の記事になっていますが、本来はその大学・学科で何が学べるか、どのような講義が展開されているか、が大学選びにおいては最も大事な要素です。それを忘れることなく大学選びをしていきましょう。とはいえ陽翔君のように高2であると、すでにある制約のなかで選んでいかねばならない状態の生徒さんもいるでしょう。その場合は自分の条件を良く見極めて大学選びをしていきましょう。高1以下の皆さんは、なるべく制約の少ない中での志望校選びができるよう、苦手科目(少なくとも足を引っ張る科目)を作らないような学習を心がけていってください。
今回はここまでにします。陽翔君は私立大学進学も視野に入れていますので、次回以降の記事では彼の私立大学選びの顛末をお話ししていこうと考えています。
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