今回は、今年から改訂が始まっている高校の指導要領についてお話し致します。
この文章を読んでいただいている方の多くは、小学生・中学生の保護者の皆様かと思いますので、2025年度からの新しい大学入学共通テストについても少しお話させていただきます。
えっ!共通テストは2021年度から変わっているのでは?と思われたかも知れません。確かにその通りなのですが、現在の共通テストは旧指導要領に基づいており、新指導要領に基づいた名実ともに新しいテストになるのは2025年度からのテストになるのです。
さて、そもそも指導要領って何でしょう?
学習指導要領とは、教育課程(カリキュラム)を編成する際の基準のことで、全国のどの地域でも一定水準の教育を受けられるようにするため、文部科学省が定めているものです。社会の変化を見据えて、約10年おきに改訂されており、小学校の新学習指導要領が2020年度から、中学校は2021年度から実施されています。小学校・中学校ではそれぞれ一斉に施行されるのですが、高等学校は2022年度に高1、2023年度に高2、2024年度に高3の順に実施されます(これを年次進行といいます)。
ですから現高1が大学受験をする2025年に全ての学年で新指導要領に基づく授業が実施されるということになるわけです。
新指導要領では、育成を目指す資質・能力を「知識及び技能」「思考力、判断力、表現力」「学びに向かう力、人間力等」の三つの柱に整理しています。この整理を踏まえて生徒たちの評定(通知表)の元となる評価の観点も小・中・高の各教科を通じて「知識・技能」「思考力・判断力・表現力」「主体的に学習に取り組む態度」とされました。
そうした整理を踏まえて、「主体的・対話的で深い学びの実現に向けた授業改善」が必要とされています。そして改善の柱として「言語能力の確実な育成」「理数教育の充実」「伝統や文化に関する教育の充実」「道徳教育の充実」「外国語教育の充実」「職業教育の充実」などが挙げられています。
こうした目標のため、2022年度から高校の教科・科目の構成が変更になり、新たな教科も登場しました。
ここでは注目すべき教科・科目について上記「改善の柱」に沿って簡単にご紹介していこうと思います。
◇言語能力の確実な育成
国語では科目構成を全面刷新して実用的な国語の能力をより重視しています(右表参照)。
このうち必履修となるのは「現代の国語」と「言語文化」です。
文科省は「現代の国語」の教材には「論理的・実用的な文章」を求め、説明文や評論文、新聞記事、企画書、法令、契約書などを想定。「小説や詩などの文学的な文章を除く」としていたのですが、実際のテキストの採択結果をみると芥川龍之介の小説を採用した出版社の教科書がもっとも多く採用され、国語の先生方の文学作品に対する思いが強いことが話題になりました。実際、場合によっては全く文学作品に触れずに高校国語を終えてしまう、と云うことに懸念を表明している論者も少なからずいるようです。いままでなかった動きとしては国語の教材として「法令」「契約書」などが推奨されていることでしょうか。「契約書」が国語の教材か、チョット驚きですよね。
今回の指導要領の改訂では、特に数学において変化が大きくなっています。高校数学は数学Ⅰ·Ⅱ·Ⅲ、数学A・B·Cの6科目で構成されます。
新指導要領で扱う単元名を上げると
・数学Ⅰ:数と式·図形と計量·二次関数·データの分析
・数学Ⅱ:いろいろな式·図形と方程式·指数関数·対数関数·三角関数・微分積分の考え方
・数学Ⅲ:極限·微分法·積分法
これらは数学Ⅲから「平面上の曲線と複素平面」がなくなっただけで、改訂前から大きな変更はありません。
旧指導要領と大きく変わったのは数学A·B·Cです。
「数学と人間の活動」「統計的な推測」「数学と社会生活」「数学的な表現の工夫」などが新しい単元です。「日常生活との関連」「社会的な視点」を重視する新指導要領の考え方を反映したものと考えられます。それに関連して「データの分析」という単元が大変重要視されるようになったのも特徴のひとつといえます。
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指導要領の話から少しずれますが、高校数学の重要性について少し書いておきます。
高校で数学が出来ないと何が起こるか。
先ず志望校にできる大学の選択肢が極端に狭くなります。大雑把に言って大学は「国公立理系」「国公立文系」「私立理系」「私立文系」に分かれますが、このうち「私立文系」しか受験できなくなります。
さらに入試方式も限られてしまいます。新しい入試形態はこれも大きく分けると「一般型選抜」「学校推薦型選抜(指定校・公募)」「総合型選抜(旧AO入試)」の3種類に分けられますが、このうち「一般型選抜」しか選択肢がなくなります。つまり数学ができないと大変窮屈な入試を強いられるようになってしまいます。
さらに高校の定期テストにおいて数学に時間を取られ過ぎ(赤点取るわけにはいかないですからね^^…)、他教科のテスト勉強時間を大きく圧迫することになってしまうのです。自分は文系だから「数学は出来なくて良い」と思っていると、大変なことになってしまいます。数学は苦手だな、と思っている人ほど、高校に入ったらすぐに数学対策に取り組んでください。ひとつずつ最初から積み上げていけば何とかなります。得意科目には出来ないまでも、数学に足を引っ張られないようにしていきましょう。数学得意な人はそれだけでアドバンテージを持っていることになります。強みをさらに生かすような学習を心がけましょう。
いま学校は、戦後最大規模といわれる教育改革の最中にあります。「小・中・高の指導要領改訂」は「大学入試改革」とともにその中の大きなトピックなのですが、それに連動して進められているのが「英語教育の改革」です。
新指導要領での英語教育の大きな目的のひとつが「英語を使う力」を伸ばすことにあり、指導要領もそうした視点で改訂されました。
先ず語彙力ですが、高校卒業までに学ぶべき語彙が旧課程の3000語から4000~5000語と増えました。
英語に関し、指導要領に記載されている主なものを記すと以下のようになります。
・英語から日本語、日本語から英語への訳読式ではなく、意味のあるコミュニケーションの中で英文に繰り返し触れ、また聞いたり読んだりすることを通して意味を理解したり、話したり書いたりして表現できたりすること。
・文法はコミュニケーションを支えるものとして、実際のコミュニケーションにおいて活用できること。
・話すことや書くことにおいて、具体例を参考にしながら自分で表現できること。
・他者と協働する力。
・ICTなどを活用する力。
・主体的、自律的学習ができること。
「コミュニケーション」「協働」「主体的・自立的」という文言が並びます。また4技能を総合的に使う「英語によるコミュニケーション能力」が重視されています。
大学入試における英語も4技能化が進んでいます。小・中の英語で重視されている4技能5領域(「聞くこと」「話すこと[やり取り]」「話すこと[発表]」「読むこと」「書くこと」)の学習が高校でも必須なものとされています。
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ここで2025年度から新しくなる大学入学共通テストについて少し見ておきましょう。大学入学共通テストの教科・科目が下表のように、6教科30科目から7教科21科目へ変更されます。
ここでは今回は新たに必修となる「情報」についてだけ少し見ておきましょう。
今年の1月に発表された「国立大学協会の基本方針」において
これからの社会に向けた人材育成の中で、文理を問わず全ての学生が身に付けるべき教養として「数理・データサイエンス・AI教育」が普及しつつある。そのような状況の中で、高大接続の観点からも、「情報」に関する知識については、大学教育を受ける上での必要な基礎的な能力の一つとして位置付けられていくことになる
との認識のもと、2025年1月の大学入試共通テストから、国立大学では今までの英数国理社に「情報Ⅰ」を加えた6教科8科目を原則課すと決まりました。
情報教育の変化は高校だけではありません。小学校において「プログラミング的思考を育成」し、中学校では「プログラミング」「情報セキュリティに関する内容」を充実したうえで、高校では必履修科目「情報Ⅰ」を新設し、すべての生徒が「プログラミング」「ネットワークやデータベースの基礎」を学ぶ、とされています。
発表されている共通テストのサンプル問題を見ると、
・データ分析の設問は読み取りや分析が中心
・情報科学に関するキーワードやプログラム・統計量に関する基本的な知識があれば解ける
・知識を問う問題は少なめに抑えられている一方、文章を読んで判断する問題が多い
・複雑な問題文や選択肢の文章を正しく理解して、必要な情報を素早く抜き出す力、思考力が求められる
といった特徴があります。
まだ本番は先の話で授業自体も始まったばかりです。落ち着いて準備をすれば十分対応できる教科です。とはいえ、必ず要求される教科ですから、焦らず着実に習得していきましょう。
今回、駆け足で新指導要領、大学入学共通テストの一部を見てきました。折を見て続編を投稿する予定でおります。記事について何かリクエストがあれば、教室までお知らせください。
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